2015年8月18日火曜日

アカテガニの小さな命の誕生の瞬間に出会った大潮の夜

横須賀YMCA・夏季プログラム「サマーナイトハイク」実施報告

 8月16日(土)満潮と干潮の差が大きくなる大潮の日に合わせて、横須賀YMCA生涯学習部では三浦市の江奈湾の干潟の岩場を訪れ、三浦半島の江奈の森周辺に生育する「アカテガニ」の卵の放卵の様子を観察するという「サマーナイトハイク」プログラムを実施いたしました。小学生から高校生までの子どもたち12名、保護者4名、ボランティアリーダー5名、そして普段は横須賀YMCAで行われている「ことばの教室」を担当する武田先生がナビゲーターとして参加していただきました。
 京急線の三浦海岸駅からバスで20分、「江奈」というバス停近くの葦原が広がる干潟の先の岩場が会場でした。夕方の18時、バス停近くの道路脇の空き地で軽く夕食を食べて身支度を整え、三浦市自然保護の会会員でもある武田先生から三浦の自然やこの地域に生育する生き物の様子について説明を聞いた後、いよいよ出発。
 最初は道路に沿って、300メートル先のトンネル脇のコンクリート塀の前までやってきました。日が沈みかけて周りが薄暗くなりかけた頃、こんなところにもカニがいるのかと懐中電灯で照らしてみると、いました、いました。土と雑草にまぎれてかさかさ動いているカニたちを見ることができました。この付近にはアカテガ二だけではなく、クロベンケイガ二、ハマガ二、アシハラガ二、ヤマトオサガニなど、多くのカニが生育しているそうです。気がつくとと足元にも道路の脇にもカニを発見することができました。このような内陸に住むカニたちも産卵のために道路を渡って海岸を目指すらしく、途中道路を横切る際に車に引かれたり、野生の鳥や動物に食べられたりで、命をつなげていくのにはまさに命がけのようです。
 道路脇から草むらを掻き分けて、細い小道を進み海岸に向かいました。その途中、日が落ちて薄暗くなった頃から咲き始める白いレースのような花弁をもつカラスウリの花が、私たちを優しく迎えてくれました。
 足元の地面をよく見るとあちこちにたくさんの穴が開いています。この穴は全部カニの巣穴だそうです。
 この数日、にわか雨が頻繁に降っていたため、海岸に近づくにつれ足元はかなりぬかるんできました。背の高い葦わらを掴みながら干潟の泥にまみれ、一歩一歩ゆっくりと岩場目指して歩いていきました。やっと放卵が見られる岩場にたどり着いた頃には完全に日が暮れてもう真っ暗でした。
  やさしく打ちつける岩場の波打ち際をよくよく見ると、たくさんのフナムシに混じってあちらにも、こちらにもアカテガニを見ることができました。鮮やかな赤い色をした体格がいいのがオス、茶色っぽい小柄のものがメス、体の表面が乾いているのがこれから放卵を控えたメス、濡れているのが放卵を終えたメス、乾いた体のカニの腹部には確かにたくさんの小さなつぶつぶの卵を肉眼で確認することもできました。1匹のカニにつき、一度に約2~3万個の卵を海水の中に放出されるそうです。放出された卵はすぐに脱皮して「ゾエア」という幼体に変化し、さらに2~3ヶ月で「メガローパ」という幼体になり、その後カニに成長することなど、武田先生からアカテガニのいろいろな特性について話を聞きながら、初めて遭遇するカニの放卵の様子を皆でしばらく観察しました。武田先生が持ってきたビーカーで、海水をすくって覗いてみると、確かに水の中でスイスイと動いている小さな生き物をたくさん見ることができました。
 海水の中で体を震わせ卵をパっと放出する瞬間を見た子どもたちからは、「見えた!見えた!」と興奮気味の声が、これから放卵するカニに向かって「がんばれ!がんばれ!」や、放卵を終えて陸に戻ろうとするカニに向かって「お疲れ様!」など、カニたちへの応援の声もあちらこちらから聞こえてきました。
 実際のアカテガ二の放卵の様子を自分の目で見るという貴重な素晴らしい体験に、途中のぬかるみに足をとられて泥まみれになったこともすっかり忘れ、小さなカニたちからまるで元気をもらったかのように子どもたちも大人たちも参加者の表情はとても生き生きと輝いていました。
 YMCAの近くでこのような素晴らしい自然の営みに触れられるのは横須賀YMCAならではと思います。ぜひまた今後の自然観察プログラムへのご参加をお待ちしています。 
(生涯学習部 佐々木美智)